「STAND BY ME」より抜粋
* 1 *
並盛中 野球部2年―――山本武は怖いもの知らずであった。
なぜなら―――
「オーッス、ヒバリ!」
昼休み、部室に弁当を食べに行く途中、山本は雲雀の姿を目にすると、笑顔で手を振った。
「「!!!!」」
―――山本ぉお、何気軽に声かけてんだよ!?
一緒にいた野球部の友人たちは途端にぎょっと顔を引きつらせ、反射的に半歩後ろへ下がった。
友人たちの反応は決して大袈裟なものではない。
なにしろ、雲雀恭弥と言えば並盛最凶の風紀委員長様である。
泣く子も黙る―――どころか、泣く子は更に大泣きするお人だ。
友達同士で固まってお喋りしているだけでも、
『かみ殺す』と言って、トンファーで殴りかかってくる。
「………」
人懐っこく声を掛けてきた山本を一瞥し、雲雀はその場を立ち去る。挨拶を返すことはしなかったが、
しかし、『馴れ馴れしい』と険悪な態度をとることもなく―――。
「あ〜………いっちまったのな」
若干、残念そうではあるものの特に気にしていないらしく、ガリガリと後ろ頭を掻くと、
「さー、メシメシ」
とっとと食欲の方へ意識を切り替えた。
自分がトンデモナイ事をしたなんていう自覚がこれっぽっちもない。
「メシメシ、じゃねぇだろ!?」
「へ?」
「なに、気軽に雲雀さんに声かけてんだよ」
「そうだよなー。よく、殴られなかったな」
―――三人で群れてたから、てっきり『かみ殺す』って、ことになると思ってたのによぉ。
雲雀と山本の目が合った直後、隠し武器がジャキッと袖口から出てきて、あっという間にぶちのめされると思っていた。
そんな光景が一瞬で脳裏を過ったにもかかわらず、殴られるどころか物騒なセリフが彼の口から出てくることもなかった。
気にかける必要もないため完全無視された―――というのなら、何も言うことはない。
だが、雲雀の視線は一瞬だが確かに山本に向けられた。
それもとても強い―――視線が。
関心がないわけではないのだろう。なのに、向かってこない。
―――なぜ???
「もしかして………雲雀さん、山本のこと気に入ってたりして?」
一人が恐る恐るといった様子で推測を述べる。
「ないないない!」
「そうかなぁ………」
「あの人、ケンカが強い人には結構興味あるみたいだけど、オレたちは健全なスポーツマンだぜ?」
「んー………それは否定しないけど。でも、山本だったら運動神経も抜群だし、喧嘩してもイイとこいくんじゃないか?」
言いながら男子生徒は自分より10センチ近く背の高い野球部のエースを見上げる。
「確かに、こいつなら雲雀さんのトンファー攻撃も避けられるかもなー」
鋭い打球が飛んできた時の反応の良さ思えば、納得できなくもない。
「だろ?」
「でも、仮に山本が強いと感じたら、好戦的に向かってくるんじゃ………」
「………う〜ん、それもそうか」
勝手な想像で盛り上がっているチームメイト達に、山本はセリフに反してのんびりとしたペースで声を掛けた。
「早く行かねーと、ミーティングに遅れるんじゃね?」
今日の昼食は部内ミーティングがあるため、部室でとることになっていた。
「あ!」
「いっけねっ」
「急がないと先輩に怒鳴られる!!」
おしゃべりしていて遅刻なんてことになったら、大変だ!
彼らは慌てて部室へ向かった―――
以下同人誌〜