「 俺様と御主人様 」より抜粋―――



 

 

 八月 イタリア


 レーザー光線がザンザスの体を刺し貫いた!
「キャー、ボスっっ」
 野太い男の声で悲鳴があがった。
 現在、半壊した城の地下にボンゴレ独立暗殺部隊 ヴァリアー(+1)はいる。
 +1こと、ボンゴレ未来の幹部 山本武は研修の一貫として同行していた。
 高校三年の夏 惜しくも甲子園出場を逃した山本は夏休み後半、臨時のヴァリアー隊員として任務を申し渡されたのだ。
 彼の親友でありボスである沢田綱吉は最後まで渋っていたのだが、リボーンの一声で決まった。
『山本は高校卒業後、メジャーを目指すのにっ。ヴァリアーと仕事!? ダメだって、そんな危ないことっ』
『黙れ、ダメツナ』
 ベシっと後頭部を叩かれ、半ば朦朧とした意識の中で操られるように、指令書にサインをさせられてしまった。
 後悔しても一度指令が下ってしまえば、ボスといえど早々取り消しが効かない。
 もちろん、やってやれなくもないのだが、そうする前に、
『オッケ。わかった。スクアーロんとこで、ちょっくら修行してくればいいのな』
 ヴァリアーのところに行く=スクアーロと修行。
という図式が山本の中では既に出来上がっていた。
 それというのも、スクアーロが日本に来るたびに山本と剣の手合わせをしていたせいだろう。
 山本自身がイタリアまで行ったことは、これまでに一、二回―――それも一泊二日とか二泊三日の超短期間―――だけだったけど。

 画して、時雨金時ひとつを手に山本は身軽に渡伊し、深夜にヴァリアーの根城につくやいなや、その足で任務に同行することなった。
 時差とか長距離移動の疲労を考慮するようなお優しいマフィアは当然存在せず、また体力には自信のある山本も嫌がらなかったので、そこで一悶着おきることもなくスムーズに臨時隊員は任務に組み込まれる。
 とはいえ、急遽加わった人員なので、計画に支障をきたさぬよう、遊撃手的なポジションを振り分けられた。
 野球というチームワークが必要とされるスポーツに長年身を置いている山本なので、『やれ!』と言われれば、チームの中に溶け込むのはそう難しいことでもなかっただろう。だが、ヴァリアーの隊員がそれを即座に受け入れられるかと言えば………話は別だ。
 一日でも交流時間があれば、どうにかなったかもしれないが。
 山本の環境適応能力はちょっと普通じゃないので(笑)
 


「タケシ、あんた何してくれちゃってんのよ!?」
 ルッスーリアがサングラス越しに山本を睨みながら、駆け寄る。
「え?」
 詰め寄られた山本はキョトンとした顔でオカマ幹部の顔を見返す。
「早く、それを閉じなさい!」
「?」 
 凄い剣幕に押されるよう、瓦礫の中から拾い上げたコンパクト型の鏡をパタンと閉じる。
 同時に赤いレーザー光線―――実際は違うのだが―――が、消失した。

 ドタッ。
 直後、最凶の殺し屋 ヴァリアーのボスの体が瓦礫の上に倒れこむ。
「「「「ボス」」」」
 駆け寄るレヴィ。
 そして、すぐさま抱き起こし隊服の前を肌蹴させる。
 滅多にあることではないが、緊急時に備えて医療道具は一通り身に着けていた。
「………ん?」
「あら?」
「傷がねぇぞぉ」
「しししっ」
 覗き込んでいたヴァリアーの面々が不審げに眉を寄せる。
 確かに体を光線が貫いていったはずなのに。
 だが、実際のところザンザスの肌に、新しい傷は一つも見当たらなかった。
 古い傷跡ならば広範囲に広がっているけれど。

「どうしたのな?」
 深刻そうな顔でボスの周りに集まっているヴァリアーの人たちの姿を目にし、山本は遅ればせながらその場に足を運んだ。
 ザンザスの強さは知っていたので、まさか彼が重傷を負っているだなんて、夢にも思っていない。
 だって、臨時参加の山本ですら今回まったく手傷を負っていないのだ。ならば、自分より強い彼が怪我をすることなんてありえないだろう。
 信用しているというより、事実としてそう認識している。

 飄々とした態度を保ったまま、山本は皆のもとへぴょこんと顔を出し、彼らが見ている者に視線を向ける。
「こんなとこで寝てると風邪引くぞ〜」
 目を瞑って瓦礫の上に横たわっているザンザスを目にして、山本は場にそぐわぬ言葉をかけた。
 そこに深刻の『し』の時もない。
「―――!」
―――天然っ。
 ある程度、山本という男を知っているスクアーロには、彼が本気でそう思っていることが判る。
「こんなとこで寝るバカがいるかぁっ」
 ボカッ。
 とりあえず、ボケにはツッコミ。
 スクアーロはすかさず、山本の背中を度突いた。
「いてっ」

「―――!!」
 その刹那、スクアーロの銀髪が前方にブワサァーっと流れ、その長身は後方に激しく吹っ飛ぶ。
「ぐはっ」
 いつも以上に情け容赦ない蹴りがザンザスによってなされた。
「クソが! てめぇ、何しやがった! タケシ様に向かってっっ」
「「「「!」」」」
「「「「タケシ様!?」」」」
「―――っ」
 合唱するヴァリアー幹部。
 その直後に、はっと息をのむボス。
 彼も自分のセリフに酷く驚愕している様子である。
 目を見開いて、「タケシ様」と言った口を大きな手で覆っていた。
―――オレは今、何を―――!?
「ど、ど、ど、どうしたんですか、ボス!?」
 ボス第一。ボスイズマイライフ!なレヴィが動揺を隠せないドモリ口調でザンザスに問いかける。
「―――」
 聞かれても、ザンザス自身、訳がわからないのだ。
 とりあえず、ギロリと睨んで黙らせる。

「タケシ、あんた―――何したのよ」
 前後の行動を鑑みるに、原因は山本武しか考えられない。
「えーと、オレ? オレ、なんかしたのな?」
「アタシが、聞いてるのっ」
「って、言われてもなぁ………」
 ポリポリと人差指で頬を掻きながら、答えに困る。
「―――!?」
 その指の間にある物に、ルッスーリアの目が釘つけになる。
「それよ! それしか考えられない!」
「それ?」
「そのいかにも曰くありげなコンパクトよ!」
「コンタクト?」
「そうそう、便利だけど、あれ、目がゴロゴロして違和感ありまくりなのよね―――って違うわっ」
 一人ボケツッコミ終了。
「いいから、よこしなさい」
「おう」
 差し出された手の上に、山本をひょいと通常の物より少しばかり重めのそれを置いた。
 ルッスーリアは渡されたそれを慎重に観察する。
 まずは表を見、つぎに裏をひっくり返し、その後、おそるおそる中を見る。
「―――っ」
 また赤い光線が出ては大変なので、誰にも当たらないよう、瓦礫で隔離された場所まで移動して。

「―――! なんてこと!?」
「「「「どうした!?」」」」

 どうにもよくない叫び声に、ヴァリアーに動揺が走る。
「あ〜も〜信じられない!」
「だから、どういうことだ。クソオカマ!」
 じれったそうに詰め寄り、ガクガクとルッスーリアを揺する。
「説明するから離れて」
 ユッサユッサ激しく揺らされたままでは、話が出来ない。
 片手を前に伸ばし、スクアーロの拘束から逃れる。
「これ、実はね―――」
 そして、ルッスーリアは語った。
 この鏡は非常に強い強制力のある主従契約呪具である、と。
 呪具の蓋を開けると、そこから光線が発せられ、その場にいる者の中で、一番力の強い存在に当たるようになっている。そして、光が収束し消えると同時に主従契約がなされる。
 もちろん、呪具の持ち主が『主』で光を当てられた方が『従者』だ。
 誰が作った者なのかは不明だが、その意図は明白である。


以下は本誌で。