「昨日も、今日も、明日も」 



p20〜p24から抜粋―――
駅を探す山本の視界に見知った顔が飛び込んできた!

「スクアーロ!?

 髪の毛が短いが、あの綺麗な銀髪は間違えようがない。

 ここがどこで、今がいつか、なんていう基本的なことが一瞬で頭から放り出され、嬉しさのあまり彼に飛びつく。

「やった! スクアーロに会えたのな!!

おお(゛゛)いっ。てめー、誰だぁ!?

 尻尾を振った大型犬にいきなり懐かれた―――そんな感じで、スクアーロは踏鞴を踏む。

「オレ、困ってたのな!」

ああ(゛゛)? それがどーした!? てめーが困ってようがオレは関係ねーぞぉ!」

―――一体、誰だぁ? こんなヤツは知らねぇぞ。

 不審も露なスクアーロだが、自分は知らないが相手は彼を知っているということは珍しいことではなかった。とんでもない強さの少年剣士がいると、一部では有名だったので。

 

「お!? 背がちっちゃくなったのな。オレより、ちっと小さくね?」

 初対面の時からずっと見上げていた青年の目線が同じところにあるのが、新鮮だった。

うお(゛゛)ぉい! ちっせーだと!? ふざけたことぬかしてると、たたっ斬るぞぉ!」

 14歳のスクアーロは街中を歩く時には剣を携えていなかったので、ナイフを袖口から取り出した。

 まだどこの組織にも所属していはいないが、マフィア関係者が多く通う学校に通っていたスクアーロは自衛のために武器を常備していた。

 もちろん、刃物を出す前に路地に引きずり込むことを忘れない。

 

「おっと……危ねーのな」

 ちっとも危機感を覚えていない口調で刃が頚動脈に押し当てられるのを避ける。

「―――!!

 そこで、スクアーロのシルバーグレイの瞳がキラリと物騒な光を宿した。

「貴様、剣士だな?」

「この格好見たら、一目瞭然じゃね?」

 答えながら、山本は両袖を指先で抓んで、ピンと左右に伸ばす。

「……何人、斬り殺したぁ?」

「え?」

「ただもんじゃねーだろ、貴様」

「買いかぶりなのな」

 斬り殺した云々はスルーする。

「―――てめぇがどこのどいつだかは知らねーが、それについてはもうどうでもいいぜぇ」

「サンキュ」

「その代わり、オレと今すぐ勝負しろぉ!」

「勝負―――かぁ」

 ちらっと義手を持たないスクアーロを見遣り、躊躇する。

 義手じゃないということは、このスクアーロはまだ剣帝テュールとの死闘も世界無茶修行の旅も経験していないということになる。

―――ここで、またマグレ勝ちとかしたら、やばくね?

 リング争奪戦で紙一重にしろ勝利を収めている山本だ。

 あれから更に磨きをかけた時雨蒼燕流で14歳の若鮫と戦えば、勝ってしまう確率は低くはない。

 今更だが、歴史を変えてしまう危険性に気づく。

 

―――あれ? でも、ランボもしょっちゅう未来からやってきてたし。そん時、特に関わらないようにしている感じでもないから、別に大丈夫なのか?

 タイムトラベルに関するタブーがいまいちよく判らない山本だった。

 

「なぜ黙ってる!?

 焦れた様子で食ってかかる。

「やるのか、やらねーのか。どっちなんだぁ!!

「――――――やってもいいけど」

「けど、なんだぁ!?

「オレが万が一勝っても怒らねぇ?」

「バカか貴様は! オレが負けるわけねぇぞぉ!!

「ハハッ」

―――そこで自信たっぷりに言い切っちまうのが、スクアーロだよなぁ。

「負けて死んじまったら得るもんなんて何もねぇ」

「その負け=死ぬっていう図式もどうにかしてほしいんだけど。オレは峰打ちしかしねーのな」

「勝負はいつでも互いの命を賭けてやるもんだ!」

「…………じゃ、やらね」

 くるっと踵を返し、スクアーロに背を向ける。

おぉ(゛゛)い! どこへ行く!?

「―――」

 答えず、スタスタと遠ざかる。

「って、待てぇ!!

―――逃がすかっ。

 同年代で力のありそうな人間に出会うことは稀少だ。

 今日まで東洋西洋の剣術家とは幾多の勝負を重ねてきているが、ほとんどは彼より年長者だった。

―――こんなおもしろそうな相手を逃がしてたまるかぁ。

 一見すると、ヤワな東洋のガキだが、一筋縄でいかなそうな匂いがプンプン漂ってくる。

「待てぇ、オレが怖くて逃げるのか。腰抜け!」

「…………」

 スクアーロだったら、瞬間的に怒り沸騰する単語を投げつけたのだが、袴姿の少年は一顧だにしなかった。

 振り返る素振りどころか、耳に入れているかも怪しい。

「止まらないと、かっさばくぞぉ」

 姿勢を低くし、山本の背中目掛けて特攻をかけるスクアーロ。

「―――ッ」

 だが、スクアーロの特攻はスルリとかわされてしまう。

「ちぃっ」

 あまりにあからさま過ぎる動きだったと反省し、次の手を打つ。

 手首をがっちり掴んでやろうと、腕を伸ばしたのだが―――

「なっ―――」

 山本が歩きから走りに切り替えた。

 見る見る遠ざかる山本に、スクアーロは慌てて後を追う。

うお(゛゛)ぉ〜いっっ」

 曲がり角の直前までは姿を追えたのだが、角を過ぎた後、見失ってしまった。

〜後略〜
続きは本でv