鼻血男  獄寺*山本

 

 

 

 ☆ プロローグ ☆

 

 

 

 イタリアからやってきた転校生 獄寺隼人は色恋には興味のない硬派な男だと認識されていた―――並中の生徒や教職員には。

 しかし、その実態は…………

 

「―――!?

―――ぶっ。

「………? どうしたのな?」

 不思議そうな顔をしながら、山本武は獄寺に近づく。

「く、来るんじゃねぇっっ」

 次の授業は体育。そのため、彼らは教室で体育着に着替えていた。

 そんな中、突如獄寺の様子がおかしくなる。

 

「?」

 一メートル手前まで接近したところで、顔を押えている獄寺の指の間から赤いものが滲みだしていることに気づく。

「鼻血?」

―――あぁ、今日は結構暑いしな。逆上せたんだな。

 納得すると、すぐに自分の席に戻り、鞄の中を漁りだした。

「あちゃぁ………ワリ、獄寺。ティッシュ持ってくんの忘れた」

「オレ持ってるから、使って」

 毎朝、母親に『ハンカチ持った? ティッシュは? それから―――』と口煩く言われている沢田綱吉はポケットの中から封の切られていないポケットティッシュを取り出し、自分を『10代目』と崇め奉っている少年に渡した。

「申し訳ありませんっ。ありがたくお借りしますっっ」

「これくらい、返さなくていいって」

 恐縮しきりの右腕志願者に苦笑を浮かべる。

「それより早く血を止めた方がよくない?」

 手渡されたポケットティッシュを握りしめたままの獄寺の顔は血塗れで―――すごいことになっていた。

「お見苦しいところをお見せしてすみませんっ」

 そこでまた土下座せんばかりに頭を下げる獄寺に、

「それはもういいから」

―――早くどうにかしないと教室の床が獄寺君の鼻血で染まっちゃうよ………。

 それはちょっと勘弁してほしい。

 出血箇所が鼻以外なら純粋に獄寺の身を案じることができたのだが、鼻血だと喜劇めいていて―――

 

「なぁ、とりあえずティッシュを使う前に水道の水で顔とか手とかシャツとか洗った方がよくね?」

 その場で一番冷静だった山本の言葉に、ツナも同意し、

「そうだね。そうした方がいいよ」

10代目がそうおっしゃるのなら!」

 激しく頷いた拍子に、またビシャっと鼻から血が床に飛び散る。

 そうして、教室の一角を赤く染めたまま、獄寺は廊下に飛び出していった。

 彼の通り道には、テンテンと上履きの跡が残される。

 赤い靴跡は事情を知らなければ、ホラー映画のワンシーンに出てきそうな光景である………

 

「はははっ、ホント獄寺っておもしれーのな」

「あははは………」

―――そんなこと言えるのは山本だけだよ………。

 親友のお気楽なセリフに曖昧な笑いで応じる。

『………………』

 獄寺がこんな風に教室で鼻血を出すことは今回が初めてというわけではなく、またおそらく最後でもないだろう。

 我関せずとばかりに黙々と着替えていた同じクラスの男子生徒たちは、げんなりとした表情を作りながら心の中で呟く。

 彼らは大部分の並中生とは異なる獄寺観を持っていた。

 よく他のクラスの女子が、

『獄寺くんてカッコイイよねぇ』と言うけれど………

―――どこが!?

『イタリア出身ていうことは、やっぱり恋愛経験豊富なのかなぁ』

―――ないない!

『週替わりどころか日替わりで恋人替えていたりして―――』

―――ありえねーーーっっ。

『エッチとかも上手そう』

―――つーか、どう見てもドーテイ君だろ、アレは!!

『男子が持ってきたエッチな本とか見て、鼻で笑ってそうだよねー』

―――それは実際あった話だけど、エッチでもなんでもない男の半チラに鼻血ブーだぜ、アイツ………。

 




以上サンプルでした〜