「愛情過剰主義」

オープニングから一部抜粋―――

 

 

 

OPENING

 

 

 

「山本、この書類を受け取れ」

 ボンゴレ嵐の守護者 獄寺隼人は病院のベッドに横たわった体勢のまま、見舞いにきた恋人に一枚の用紙を突きつけた。

 敵対ファミリーとの抗争中、戦場にまぎれこんできたノラ猫を庇い、全治二週間の怪我を負ってしまったのである。

 マフィアなんていうものをやっている限り怪我は付き物だったが、今回は一歩間違えればあの世行きという状況だった。

 ビルの3階部分から落下したのである。

 幸い、1階部分が店舗で、その布製の庇がクッション代わりとなり、落下の衝撃が緩和されたが。

 うっかり走馬灯が脳裏を過ぎってしまった獄寺は色々と考えるところがあったようである。

 その結果―――

 

「病院にいるときくらい、仕事しない方がよくね?」

 名実共にボンゴレ10代目の右腕となった獄寺は、事務的な面では頼りにならない守護者たちの分までも八面六臂状態でペンを操っていた。

「これは仕事の書類じゃねぇ」

 包帯の巻かれた左手で、白い紙面を叩く。

「え、じゃあ、なに?」

「生命保険の契約書だ」

「セイメイホケン…………?」

 ピンとこなかったようである。山本は怪訝そうに首を傾げる。

「オレに万が一の時があった場合、テメエに保険金がおりるようにしといた。万万が一、オレが死んだらその保険金でテメエ専属のボディガードを雇え。男でも女でも年は50以上で既婚者っつーのが第一条件だな。フラフラとお前の色香にやられて手を出してくるような脂ぎったのは却下だ」

「そんなのいらないのな」

「オレの愛の証が受けとれねーっていうのか!?」

 結婚後、お互いを生命保険の受取人にするということを人伝に聞いた獄寺は法律的な結婚は出来ないけれど、気持ちだけは夫婦だと示すために、内緒で保険に加入したのである。

 マフィアではあるが、一応表向きは、とある企業の会社員ということになっていたので、保険に入るのはそう難しくなかった。

 妻に対する愛情を数字で示すいい機会だとばかりに、高額の死亡保険を契約した。

 よって、毎月払う掛け金もかなりお高い。ちょっとしたマンションの賃貸料くらいになるほどである。

 ボンゴレの幹部である獄寺にとっては端金と言っていい額であるが、庶民からしたら生活を圧迫する掛け金であった。

 

「オレのこと好きならオレより先に死なないでほしーのな!」

 山本は潤んだ眼差しで最愛の人を抱きしめる。

「痛ぇっ。山本、離せっ」

 感情が昂ぶっている山本には獄寺の悲鳴は聞こえなかったようである。

 ますますギューっと抱きしめる。

「―――ッ」

 ガクッ。

 獄寺はそのまま意識を喪失してしまった―――